豊永亮×チャールズ・ヘイワード
「punk」 Akira Toyonaga(gt)×Charles Hayward (ds)
¥2000
jigen016
2016.9.30 in store
「punk」 Akira Toyonaga(gt)×Charles Hayward (ds)
¥2000
jigen016
2016.9.30 in store
1. Nice Noose
2. Honey Hour
3. Laura Laughs
4. Martian Man
5. Fresh Face
6. Pretty Pocket
7. John Jones
8. Invisble Ink
9. Kool Klub
10. Orifice/Office
total46:13
All tracks improvisation by Akira Toyonaga and Charles Hayward
Akira Toyonaga – electric guitar
Charles Hayward – drums, melodica
recorded by Charles Hayward , July 2013 at Lewisham Arthouse, London
mixed by Miyamoto Takashi ,2015
mastered by Owa Katsunori ,February 2016 at Studio YOU ,Osaka, Japan
cover photo : Charles Hayward
art drawing and cover design: Kotani Hiroyo
special thanks : Nagano Masataka
produced by Miyamoto Takashi (Jigen Production) 2016
本作品‘PUNK’について
川端 宏昌
本作品は、THIS HEATやCAMBERWELL NOW、QUIET SUN、近年ではMASSACRE のドラマーとして、また、ソロの即興演奏家としても有名なチャールズ・ヘイワードと京都を中心に活動するギタリスト、豊永亮によるインプロヴィゼーションの記録である。
英国におけるヘイワードのプライベートスタジオにて、極めて限られた時間の中で収録されたせいか、はたまた、二者の演奏の特徴が顕著になった結果なのか、その内容は全編に渡り、尋常ではない緊張感に満ちている。集中して聴けば聴くほど、私達はまるで内臓を引きずり出されるような強烈な感覚を味わう事となる。ライブ音源ならまだしも、ヘイワード名義の作品で、ここまで即興に重きを置いた作品はほとんど見当たらない。本作品からは作曲されたもの、テキスト化(譜面化)されたものを再構成することが、音楽として絶対ではないことを再認識させてくれる力に満ち満ちている。混沌を彷徨うようにして、音が蛇行し、物語が構成と解体を目まぐるしく繰り返す、そういった音楽だ。
会話のように演奏し、意図と意図とがぶつかり合い、それぞれの端緒の糸を探しあうかのように音楽が進んでいく。即興演奏の醍醐味はそこにあるだろう。ただし、それは刺激的であると同時に、大変に危険な試みでもある。従って即興音楽とは時として倦怠に堕する怖さがある事も事実だ。実際、演奏者、並びに聴衆までも巻き込んで、ひどくうんざりした気分にさせてしまう場面をしばしば私達は見かける。
だが、ヘイワードと豊永の演奏において、それは見事なまでに回避されており、スリリングな緊張感と、聴取の快楽が、全編を通して維持される。ヘイワードは歌うかのように(実際にシンガーでもあるが)即興的に物語を生成していくが、豊永がそれを即座に断片化していく。その断片をまた、ヘイワードが物語として再構成して……というように、私達はそのスピード感と目まぐるしさに息つく暇も無いまま、演奏を聴き終えることとなる。
ギタリストの豊永亮については、CD/レコードショップはもとより、ウェブ上を隈なく検索しても、ほとんど情報は手に入らないだろう。豊永は1992年、POU-FOUのギタリストとして一度メジャーデビューし、その後、romp というバンドで活動、F.M.N Sound factoryから「a moment on the air」(95)をリリースしている。その後、ソロギタリストとして活動しながら、音源製作も平行しつつ現在に至る。この間、幾度か、ヘイワードと共演を果たし、その記録はLocus Solusからリリースされた「escape from europe」、「near+far」(97)に残された。極私的な体験として、彼の演奏を初めて観たとき、唖然としたのを良く憶えている。ドラム、キーボードのトリオ編成でのインタープレイであったのだが、わたしは彼に釘付けになってしまった。一体どうやって、あの音は出ているのだろうか。幽霊のような音像、消えては浮き上がるフレーズとノイズ、そのすべての音が、鋭角に、空間を切り裂くように、徘徊する。関西、主に京都で、運が良ければお目にかかれるというような希少な活動状況が現状であり、もしライブをするとしても、なかなかウェブ上に情報は上がってこないアーティストではあるが、「誰某のプレイに似た……」という、それこそ慣用句的な言い回しの効かない、大変ユニークなギタリストであることは、保証できよう。願わくば、彼により多くの活動の場を、そして、彼の諸作品のリイシューを!
————————————
魂の交友録‘PUNK’
宮本 隆 (時弦プロダクション)
「ヘイワードはデュオの時、割と人の顔を見て演奏する。すると僕も無視するわけにいかなくなって合わせるような演奏になる。あるライブの時、それが消化不良気味に感じられ、次からはヘイワードの方を向かないようにして己を貫徹しようと試みた。するとその演奏の後、控室でヘイワードから初めて‘very well’と言われた。」(豊永亮)
豊永亮とチャールズ・ヘイワード。この二人は俄かでデュオを行ったわけではない。ロンドンや日本で幾多の共演、複数でのセッションを含め、様々な行程を経てお互いが手応えを感じ取り、デュオの確信を掴んだ事で行ったセッションの記録が今回のアルバムになった演奏音源である。91年に豊永が渡英しヘイワードを訪ねたのは自分のアイドルであるヘイワードに会いたい一心からだったという。彼はヘイワード宅を‘無理やり’来訪した。「電話番号を調べてヘイワードの家に押しかけた。電話番号はレコメンデッドの店で店員に「ディス・ヒートのメンバーに会いたいのですが」と訊ねると黒い手帳を開いて彼らの電話番号を教えてくれた。」(豊永)その時点では一緒に音を出す事は全く考えておらず、ヘイワードも自分のファンだというこの奇妙な日本人に興味を持ち、予期せぬ交流がここに始まる。3回目の渡英の際、豊永は所属するグループであるpou-fouのデビューアルバムを持参し、ヘイワードに渡す。4回目の渡英の時に初めて複数メンバーでのセッションが実現した。そして96年にはヘイワードの来日招聘に尽力。各地でのジョイントが実現した。‘ディスヒートの衝撃から15年。伝説のチャールズ・ヘイワード初来日’というフライヤーのコピーと共に話題が沸騰した当時の状況を思い出す。私は大阪公演を観たがドラム、SEによる音響、ボイスというソロスタイルのヘイワードの表現世界に衝撃を受け、とりわけ印象に残ったのはヘイワードのドラミングのテンポの正確さ、安定感であった。彼はどのような局面においてもテンポに独特の安定感があり、それがいかなる共演者をもグルーヴに巻き込んでいくような力があった。と同時にその表現の丁寧さ、緻密さが相手とのアンバランス、差異となって露呈することもあったと思う。豊永はその時もライブに参加した。以後、ヘイワードは3度の来日を果たし、二人は共演を重ねてきたのである。
豊永亮とチャールズ・ヘイワードによる‘PUNK’
私はこのアルバムに二人の‘奇妙な一体感’を見る。‘奇妙な’と言うのは、フリージャズのような‘あっち向いてほい’の演奏ならともかく、強烈なオンビートを反復するヘイワードに‘沿って乗る’形の演奏をしない豊永のギターがその音の塊を散布するような演奏に徹する時、逆に全体が立体的な音像となって立ち現われている事による感想である。フレーズやリズムのシンクロによって‘息が合う’演奏はよくあるが、二人の演奏は各々がサウンドをいわば自らに投げて相手の出方に動じない芯を作る事によって偶発的に阿吽の呼吸めいた空間を生んでいるように感じるのだ。確かにヘイワードは‘反応の演奏者’でもあろう。ジャズ的なインタープレイの素養があり、その安定したテンポは相手をも反応させずにはいられないグルーブを提供するだろう。しかし豊永はある種の頑固さを持って、自らの音の断片を投射することにこそ専念する。そこでヘイワードは半ば諦めたように自らも爆発性でもって対応し、図らずもその結果、ヘイワードのアルバムの中でもここまでドラマーとしての即興演奏に重きを置いた記録音源はないのではと思うくらいその爆発的なドラムプレイを堪能できる作品となった。
しかしこの作品が誕生するきっかけは偶然によるものであった事も明記しておこう。豊永が私に音源を渡したのは、私が自分のバンドのCDを渡した事へのお返しであった。彼は私がレーベルを運営していることを知らなかった。彼から手渡されたCDR。それは二人の完全な即興演奏が収録されたものであり、ヘイワードが録音したMDをCDRに変換したものでお世辞にも音質がいいものではなかった。豊永は複数のレーベルにデモ音源を送ったが反応はなかったという。しかし私は音源を深く聴くにつれ、その圧倒的な演奏そのものに魅了され、私は豊永に「これはCDにできたらいいね」と軽めの返事をしていた。その段階ではまだ作品化への自信がなかったからだ。私は音源を演奏のトラックごとに音質を向上させるミックスダウンを試みた。結果、かなり音質の向上が見られ、ヘイワード、豊永とやりとりしながらミックスを何度か修正し、ついに最終完成にこぎ着けた。
作品のタイトルをPUNKと命名したチャールズ・ヘイワード。収録された演奏の激しさがヘイワードをしてPUNKという単語を思いつくに至らせた事は想像に難くない。その通り、このアルバムは云わばドラマー、チャールズ・ヘイワードの爆発性、瞬発力が充満したアルバムとも言えよう。豊永亮とチャールズ・ヘイワード。二人の長い交流の果てに実現した魂の交友録。私は二人の関係を羨ましく思う。そこには音楽を媒体とした本当の交感がある。アヴァンギャルド系アーティストの来日時に組まれる即席的なセッションではなく、お互いの人間性までの理解を深めた果てのコラボレーションの到達とも言えるのが、本作なのである。そしてその音の交感はこれからも続いていくだろう。
2016.6.25
About ‘PUNK’
This album documents an improvisation by drummer Charles Hayward and guitarist Akira Toyonaga. Hayward was a central member of avant-rock legends This Heat, Camberwell Now, and more recently he has enjoyed fame as the drummer with Massacre and as a solo improviser. Toyonaga is a Kyoto-based guitarist. Hayward and Toyonaka have played together in private sessions occasionally since 1994, and the album was recorded at Hayward’s private studio in the UK.
They first met when Toyonaga flew to the UK in 1991 to meet his idol. Toyonaga says that he invited himself round to Hayward’s house: “I found out his phone number and called him up. I got his number from a guy who worked at the Recommended Records shop, who looked it up in a black address book”. Toyonaga insists that he never dreamed that they would play together, but Hayward took an interest in this intense Japanese fan of his and the two began an unexpected friendship. On Toyonaga’s fourth UK visit, he got to participate in a group improvisation with Hayward. He then started organizing on Hayward’s 1996 tour of Japan, and the two got to play together on several of the dates. Hayward has visited Japan three times since, and as they played together more often, they began to develop effective communication tools as a duo.
On this album, I hear a weird unison between them. Performances where the synchronization of phrase and rhythm create matched breathing patterns are not unusual. But here, if anything, it feels more like the two musicians pursue their own agendas, maintaining a core that is unruffled by what the other is doing, but by doing so they have created a field where breath can accidentally overlap. Of course, Hayward is a responsive player with a grounding in jazz-like interplay, and his solid tempos present a groove that his collaborators cannot avoid responding to. But Toyonaga is a stubborn musician, and he focuses on projecting fragments of his own sound. That makes Hayward half give up and react explosively with the fortuitous result that I think there are few albums in his discography that place more weight on his stunning skills as an improvising drummer.
Charles Hayward himself picked the title ‘PUNK’ for this release. The intensity of the performances no doubt led him in that direction. The album as a whole showcases Hayward’s explosive and instantaneous power. But this is also a document of the long, soul friendship between Hayward and Toyonaga. I’m jealous of their relationship. It is a truly communicative relationship, one that has music as its medium. This is not some hastily arranged jam session, rather, it is the result of a collaboration in which both artists have come to understand each other deeply. A communication in sound that will continue.
Akira Toyonaga made his major label debut as a guitarist with the group Pou-Fou in 1992. Later he played with Romp, who released ‘A Moment On The Air’ (F.M.N. Sound Factory) in 1995. Since then he has worked as a solo guitarist while continuing to record. His collaborations with Hayward can be heard on ‘Escape from Europe’ and ‘Near+Far’ (Locus Solus), both released in 1997.
Miyamoto Takashi (Jigen-Production) 2016
Translation by Alan Cummings